もおかのいちごびとインタビュー vol.1 元幼稚園教諭が選んだ、いちご農家への転身

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更新日:2025年06月09日

いちごと、まちと、人と。継がないつもりだった実家の農家で"楽しく私らしい農業を"

猪野さんが椅子に座って微笑んでいる様子

日本一のいちごの産地として知られる真岡市で、いちごと生きる農家さんたちの想いを伝える【もおかのいちごびと】インタビュー。今回は「猪野さんちのいちご農園」を営む、猪野麻美さんにお話を伺います。

いちご農家が感じる品種ごとの魅力

-現在の猪野さんの活動を教えてください。

猪野:いちごは、40アールの土地に、120メートルのハウス3棟、85メートルのハウス4棟を設置して栽培しています。栽培しているいちごの種類は「とちおとめ」「とちあいか」「とちひめ」「ミルキーベリー」の4種類です。以前は国内トップシェアの「とちおとめ」をメインに育てていましたが、2022年から「とちあいか」を育て始め、現在は120メートルハウスの3棟を「とちあいか」に切り替えました。
 

「とちあいか」は病気に強くて、収量も上がるし、作りやすいです。「とちおとめ」に比べて実が大粒なので、収穫にかかる時間も短くなり、作業効率が上がりました。ただ、加工品に向いているのは「とちおとめ」だと思いますね。酸味と甘みのバランスが良くて、ジャムやジュースにすると味がまとまりやすいです。県外からわざわざ「とちおとめ」を求めていちご狩りに来る方もいます。白くて甘い「ミルキーベリー」は強い紫外線に当たると、ピンク色になってしまうので栽培方法を工夫しています。幻のいちごと言われる「とちひめ」は、中まで赤くて綺麗ですけど、柔らかいので扱いが難しいんです。栃木県内でもなかなか食べられる場所がないので、北海道から2年連続で来てくれたリピーターの方もいますよ。

幻のいちご、とちひめ

本物のいちごの味を届けるために

―品種によって様々な特徴があるんですね。そして、幻のいちご・・・ぜひ一度食べに来てほしいですね。 いちごの栽培方法、販売方法で工夫されているところはありますか。

猪野:栽培では、苗やいちごの様子をよく観察するようにしています。土づくりや水にもこだわっていて、土耕栽培を続けているのもその一つです。足腰が痛くなる時もありますが、高設栽培よりも味がしっかりして、美味しいいちごになると思っています。観光農園の中には摘み取りやすさを重視して高設栽培を取り入れるところも多いですが、ウチはあえて土耕。予約の時点で、当日の服装や注意事項なども含めてきちんとご案内しています。農業体験や真岡の雰囲気を楽しみたい方にこそ来てもらえたら嬉しいですね。
 

出荷先は、もともとはJAや道の駅へ出荷していました。道の駅では来客の波があり、どうしても売れ残るいちごが出て、もったいない気持ちがありました。そんな中で、せっかく育てたいちごをもっと多くの人に届けたいと思い、オンラインでの直売や、加工品の開発を始めました。母の代から、「とちひめ」と「とちおとめ」のジャム、いちご酢はあったのですが、私はそこに、友人たちの"こんなのあったらいいな"という声をヒントに、新たな加工品の開発にも力を入れています。今では、ジェラートやいちごミルクの素、冷凍スムージーなども手がけています。加工は母の代からお願いしているところに加え、宇都宮市の工場や益子町の加工所にもお願いしています。いちごのある時期にしか商品の開発ができないので、アイデアが浮かんだらすぐに行動するようにしています。今後はいちごを使ったクラフトビールにも挑戦したいと思っています。
 

配送方法にもこだわるようになりました。以前はどれも同じパックで発送していたのですが、いちごが潰れたりバラバラになってしまうこともあって…。今はフルーツキャップやトレーを使って1粒ずつ保護し、発送用、直売用、持ち帰り用と、用途に合わせて梱包方法を変えています。ふるさと納税でも、できるだけいい状態で届けられるよう心がけています。

猪野さんの農園で売っているいちご

子供たちと、地域の人。いちごがつなぐ笑顔の輪

-様々なこだわりを持って日々いちごと向き合っているんですね。 猪野さんがいちご農家を継いだきっかけを教えていただけますか。

猪野:弟がいたので、実家を継ぐつもりはなくて。自分が農家になるとは思っていませんでした。でも、母の代でいちごの面積を減らす話が出たとき、観光農園として「とちひめ」を守ってきた歴史を思うと、なくなってしまうのが寂しいなって…。


実際に農業を始めてからは、日々関わるのが家族と職場の人、そしていちごだけ。視野が狭くなってしまいそうで、前職の幼稚園教諭の経験を活かしながら、地域の人たちと関われる工夫をしています。
シーズンの終わりには園児たちを農園に招いていちご狩りをしてもらっています。自分で選んで、摘み取って、その場で食べるという一連の体験を、子供たち自身でできるのがいちごの良さだと思っています。市内の「そらまめ食堂」の方が収穫に来て、ウチのいちごをメニューに取り入れてくれたりもしています。子供たちの笑顔や、地域の人たちとのつながりが、これからも頑張ろうと思える原動力になっています。

猪野さんがインタビューに答えている様子

地域の支え、土地の恵み、そしてこれからいちご農家を目指す人へ

-前職の経験を活かして農業に取り入れているのは素晴らしいですね。 猪野さんは、真岡でいちご農家をする魅力はどんなところにあると思いますか。 これから農家を目指す人に伝えたいことがあればぜひ教えてください。

猪野:真岡は「産地は移り変わる」と言われる中で、60年近くいちごの収穫量日本一を保ってきた地域です。
その理由のひとつは、地域の人の人柄にあると思います。ウチの祖父も、栽培技術を学ぶために何度も足利市まで足を運びました。そして「学んだことをみんなで共有しよう」と、地域全体で栽培技術を広げてきた歴史があります。真岡には情に厚い人が多くて、本当に困ったときには自然と手を差し伸べてくれる。水や日照時間にも恵まれていて、災害が少ないという"地の利"もありますが、それ以上に人の温かさがこの土地の農業を支えていると感じます。
 

いちご農家を目指す人には、まずしっかりと計画を立ててから始めてほしいですね。農業は体力勝負。始めてみたら想像と違っていた、という理由で離農してしまう人も少なくありません。いちごは儲かると言われるけれど、夏は収入がなくなる時期なので、どう乗り越えるかを考えておく必要があります。

そして、いちごは1年を通して作業があり、天候に関係なく毎日やるべきことがあります。家族だけでやっていると、休みが取れず体を壊してしまうこともあります。だからこそ、パートさんを雇ったり、頼れるところには頼ることも大事。
農業=休みがないというイメージを持たれがちですが、私はそのイメージを少しでも変えたいと思っています。毎週日曜日は基本的に休みを取るようにしていますし、収穫シーズンの繁忙期でも、農作業の後に友達と食事に出かけたり、ライブを観に名古屋まで行って、翌日は観光を楽しんだり・・・。自分のやりたいことを我慢してまで仕事をしたいとは思っていませんし、従業員の皆さんと協力しながら、しっかり休みを確保するようにしています。


何より大切なのは「師となる人」を見つけること。困ったときに頼れる人の元で、しっかりと学んでから独立するのが良いと思います。ちなみに私は、いちご農家になってから一度も「辞めたい」と思ったことはないですね。夕方のビールを楽しみに、毎日頑張っています。
 

猪野さんがハウス内でイチゴをもって微笑んでいる様子

 

土にこだわり、人とのつながりを大切にしながら、真岡のいちごを守り育てる猪野さん。【もおかのいちごびと】は、これからもそんな"まちのつくり手たち"の声を伝えていきます。

 

猪野 麻美さんプロフィール

真岡市出身。幼稚園教諭として約20年勤務。その後、祖父の代から続くいちご農家で就農。地域の人々とのつながりを大切にしながら「猪野さんちのいちご農園」を営んでいる。


取材、文章、写真:及川 瞳(真岡市地域おこし協力隊   いちごのまちコーディネーター)

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