もおかのいちごびとインタビューvol.3 製造業からいちご農家へキャリアチェンジ!父の農園で親元就農
“仕事も遊びも全力で” 妻と実習生たちと共に挑む、農園の規模拡大

日本一のいちごの産地として知られる真岡市で、いちごと生きる農家さんたちの想いを伝える【もおかのいちごびと】インタビュー。今回は、親元就農後に規模拡大を実現した「まっちゃん's BERRY」を営む、塚田雅典さんにお話を伺います。
20棟のハウスすべて「とちあいか」! 一本化の理由
-塚田さんの現在の活動を教えてください。
塚田:現在は収穫用のハウスが20棟あり、栽培規模はおよそ63アールです。ハウスの長さは50メートルから85メートルまであって、土地の形に合わせて少しずつ長さが違います。育苗ハウスは50メートルのものが5棟あり、いまはそのうち4棟を使っています。
栽培品種はここ数年で"とちあいか"一本に絞りました。以前は"とちおとめ"を中心に栽培していましたが、粒が大きく収穫がしやすいこと、さらに収量に波が少なくて安定して収穫できることが決め手です。"とちおとめ"は一気に実がなって、その後の収穫量が落ち着いてしまう時期もあるけれど、"とちあいか"は時期によって極端に収穫量が変わることがなく、比較的安定していて安心できます。出荷は基本的にJA(農業協同組合)で、就農当初はパッケージセンター※を利用していました。でも今は、収穫からパック詰めまで自分たちでやっています。
現在のスタッフは、通年雇用の外国人技能実習生が3人、パートさんが1人、それに妻を加えた5~6人程度。冬の収穫期は作業量が多くて人手が必要ですが、夏場のシーズンオフ期間に行う作業はぐっと減るので、作業人数の調整が本当に難しいですね。
※パッケージセンター:いちごのパック詰めを行っている施設。
父のいちご農園を継ぎ、35アールからのスタート
-初めてお伺いしたとき、規模の大きい農地に驚きました。雇用の面でも工夫されているんですね。塚田さんはどんなきっかけで農業を始められたんでしょうか。
塚田:高校を卒業してから16年間、製造業の会社で働いていました。転機は2011年の東日本大震災。震災がきっかけで当時働いていた営業所の仕事が減り、32歳で県外へ出向することになったのですが、その後さらに遠方への出向を打診されました。そして、その日のうちに「もう辞めよう。」と退職を決断しました。心のどこかで「いつか農家を継ぐ!」と思っていたので、即決でしたね(笑)。
退職して数か月後には実家のいちご農家を継ぎました。妻はいちご農家をやることに反対はなく、むしろ「いいんじゃない?」と背中を押してくれました。ただ、収穫が終われば作業も終わりだと思っていたらしく、1年中苗作りや管理が続くことには驚いていましたね。
就農当初は父と妻と私の3人で約35アールを管理していました。そこから、近所のいちご農家さんが高齢のため栽培規模を縮小するタイミングでハウスを引き継ぎ、一気に63アールまで拡大しました。
ちょうどその頃、JAの外国人技能実習生制度を活用し、新しい仲間を迎え入れることにしていました。本来は2人受け入れる予定でしたが、コロナ渦の影響で来られたのは1人。人手が足りずにとても大変でした。2人目に来てくれた子はこの事情を知っていて、3年間しっかり作業してくれました。契約満了で一度帰国しましたが、なんと今年の9月から再び戻ってきてくれることになっているんです。また一緒に働けるのが楽しみですね。
夫婦で大切にする「気遣い」と土耕栽培へのこだわり
-お父様の農園を継いで、規模を拡大されてお忙しい日々だと思いますが、いちご栽培やご夫婦で働く上で大切にしていることはありますか?
塚田:栽培では、土耕栽培にこだわっています。高設栽培の方が収穫作業は楽ですが、土耕栽培は地温が温まりやすく、甘みの強いいちごができると思っています。毎年の土づくりや収穫には手間がかかりますが、食べた人に「甘い!」と言ってもらえると嬉しくて、頑張る力になりますね。近所でいちご農家をやめる人が出てきたら、日本一の産地を守るためにも、できる限り規模を拡大していきたいですね。
あとは、1年中妻と一緒に農作業をし、家でもずっと一緒だからこそ、喧嘩にならないように相手を思いやることが大切だと思っています。お互いの体調を気にかけたり、日々を楽しく過ごそうと心がけています。たとえば共通の趣味をもつこと。夫婦2人とも水上バイクの免許を持っているので、仕事がないときは一緒に出かけたり、仕事が早く終わった日には、もんじゃを食べるためだけに、日帰りで浅草に行ったりしたこともあります(笑)仕事はしっかりやる、そして遊ぶときは全力で楽しむ。そのバランスを大事にしています。
そして何より、地域の子どもたちに誇れる働き方をしたいと思っています。昔は真夜中まで作業する農家も多く、それを見た子どもたちは「農業はやりたくない」「継ぎたくない」と感じることが多かったと思います。でも今の時代の農家は、暑い日は早めに切り上げて休みにして、家族や遊びの時間を大切にする人が増えました。次の世代にも農業を前向きに感じてもらえるような働き方を意識しています。
真岡市で就農する魅力とアドバイス
―栽培のこだわりだけでなく農作業との向き合い方からも、塚田さんの農業に対する想いが伝わってきます。最後に、就農を考えている方へ伝えたいことや、真岡で農業をする魅力を教えてください。
塚田:いちご農家は収入が1年の半年しかない分、生活設計をきちんと立てる必要があります。また、最近夏が非常に暑いので、作業時間を調整する工夫は必要かもしれませんね(笑)
ポジティブに考えると、自分で時間を決めて働けるのは大きな魅力です。子どもの急なお迎えにも対応できるし、会社員時代にはできなかった働き方ができる。時間に縛られないから、子どもとの時間にも余裕が持てるようになりました。
真岡市は日本一のいちごの産地なので、他の地域と比べていちごの価格が安定していて、単価が良いのも魅力です。農業に関する補助制度も充実していて、数年前に自動換気設備を導入した時にも補助金を活用しました。最近は若い農家も増えてきていて、横のつながりも強いので、困ったときにはすぐに相談できる環境があります。技能実習生の受け入れについても、農協の制度を活用すればサポートが手厚く、定期的な面談もあるので安心です。
いちご農家を始めるなら、真岡市は本当に恵まれた場所だと思いますよ。
「仕事も遊びも全力で!」家族や実習生と共にいちごと向き合い続けている塚田さん。【もおかのいちごびと】は、これからもそんな"まちのつくり手たち"の声を伝えていきます。
塚田 雅典さん プロフィール
真岡市出身。「まっちゃん's BERRY」を営む塚田雅典さん。高校を卒業後、16年間製造業に勤務したのち、父の後を継いで就農。現在は約63アールまで規模を拡大し、いちごの栽培を行っている。
取材、文章、写真:及川 瞳(真岡市地域おこし協力隊 いちごのまちコーディネーター)
更新日:2025年09月11日