健康福祉×まちづくり。保健師がつくるブルーベリー農園の挑戦。まちつくインタビューvol26. 北城 早織里さん

更新日:2025年06月12日

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栃木県真岡市で、まちづくりに取り組む方々の想いを伺うインタビュー!今回は、保健師から新規就農し、ブルーベリー農園をオープンする北城 早織里さんにお話を伺いました。

北城 早織里(ほうじょう・さおり)/ いがしら観光農園 BLUEBERRY BASE MOKA(ブルーベリーベースもおか)代表
真岡市生まれ。看護師として1年間働いたのち、祖母の病をきっかけにUターン。保健師として小山市、真岡市で勤務。退職後に新規就農し、2024年にいがしら観光農園 BLUEBERRY BASE MOKAをプレオープンさせた。25年6月にグランドオープン。

家族で楽しめる観光農園

―北城さんのご活動について教えてください。
 
いがしら観光農園 BLUEBERRY BASE MOKAの代表をしています。ブルーベリーは世界中に300以上の品種があるのですが、その中から特に大粒で美味しさにこだわった、約40種、800本のブルーベリーを植木鉢で育てています。中には500円玉サイズのブルーベリーもあるんですよ。イチゴの旬が終わった6月ごろからブルーベリー狩りを楽しんでいただけます。
 
BLUEBERRY BASE MOKAは、「たいけん はっけん つながり」がコンセプト。長年保健師として働いていた私と、保育士の友人の経験や知見を元に農園をつくっています。ピザ焼き体験や宝探し、アイス搾りやどろんこ遊びなど、子どもたちが楽しめる企画も準備中。市外の方が観光で訪れていただくことはもちろん、市民のみなさんにいつでも立ち寄っていただけるような場所にしたいと考えています。

やりたいことを探して

―元保健師ということですが、未経験から始められたのですか?
 
そうです。全くの未経験から、農地を探し、さまざまなブルーベリー農園を見学させていただいて始めました。
 
―どんなきっかけがあったのでしょうか。
 
小学生の頃からずっと、自分の本当にやりたいことってなんだろうと探していたんです。はじめは、父が小さい頃に亡くなったことやテレビドラマなどの影響で医療に関心をもち、県外に進学し看護師を目指しました。でも、本当にこれでいいのかなという気持ちはずっとあって。世の中にはたくさんの仕事があるはずなのに、知っている範囲でしか選べていない気がしていました。
 
県外で看護師として働いている最中、祖母が余命宣告を受けたのです。小さい頃から祖母のことが大好きだったので、近くにいたいと思いUターンしました。保健師の資格も持っていたので、帰ってくるタイミングで募集のあった小山市で保健師として経験を積みました。その後、結婚を機に地元に戻り、真岡市の保健師として働くようになりました。
 
保健師の仕事は楽しかったです。祖母や父を亡くした経験から、「病気にならないでほしい」という気持ちは強くて、病気になる前に働きかける予防の啓発はやりがいがありました。実際に正しい知識をお伝えすることで数値が改善した方もいらっしゃいましたし、どうやったら伝わるのか日々試行錯誤すること自体が楽しかったです。
 
ただ、SOSを出している方、高いリスクを抱えている方には介入していけるのですが、そうでない方にはアプローチしにくい部分がありました。例えば育児が大変だと思っている方は多いと思いますが、実際に「悩みがあります、相談したいです」と訴えてくる方は多くありません。声は上げずとも大変さを抱えている方々に、何かできないかと考えるようになりました。
 
一方で、市役所で働く中でまちの課題についても考えるようになりました。
年々減少していく出生数など具体的な数字を正確に知る中で、このまままちに住む人が減っていくことに危機感を覚えました。
 
先輩の保健師さんが「保健師は視野を広くもつことが大切」と教えてくれたので、研修にも進んで参加しました。その中で「健康福祉の充実には、まちづくりとのつながりが重要である」と学んだのです。
 
今後、人口が減っていくと仮定すると、労働人口の減少や税収の減少などから、経済面の衰退が起こり、サービスの低下も含め、まちに元気がなくなってしまう可能性があります。
人口減少を食い止めるには、出生率の増加だけではなく、移住や定住の促進も視野に入れて、誰にとっても子育てがしやすく、みんなが住みやすいまちだと思える取り組みが必要だと思いました。そこから、健康福祉とまちづくりをつなげていこうと考えるようになったのです。

ブルーベリーと出会い見つけた使命

―健康福祉とまちづくりをつなげる。その手段としてブルーベリー農園を選ばれたのはなぜですか?
 
健康福祉とまちづくり、というキーワードと並行して、農業にも興味があって。保健師の仕事をしていると、食の大切さを実感する機会も多く、食べ物を生み出している農家さんにリスペクトを感じていました。農業は発展性のある市場だと感じていたため、「非農家 新規就農」で調べ、いろいろな可能性を探していました。
 
その中で見つけたのがブルーベリーです。未経験でも始めやすく、イチゴの季節が終わった6月から旬がくるのも良いなと思いました。観光農園という形にすれば、市外からもたくさんの方に来ていただくことができ、まちに活気が生まれ、まちへの愛着を育むこともできると思いました。さらに、農や食の体験を通して、健康について考えることもできます。やりたいことが明確になりました。
 
そんなことを考えていた頃にコロナが流行し、本格的に自分の人生を考えるようになりました。命には限りがあるから、終わりが来たとき「ああ、楽しい人生だったな」と思えるような、豊かな人生を送りたい。私にとって豊かな人生とは、まちにあるたくさんの課題を、どうやったら解決できるか生涯現役でチャレンジしていくことだと思いました。
 
ちょうど40歳になるタイミングで、周りにも頑張っている40代の方が多いなと感じていました。一人では踏み込む勇気が出なかったかもしれないけれど、保育士の友人が「一緒にやろう!」、夫も「応援する!」と言ってくれました。みんなに背中を押してもらい、40歳を一つの区切りとして、挑戦しようと決めました。
 
構想を始めた4年前くらいから、朝から晩までこの事業のことを考えているんです。すごく楽しくて、自分でもよく飽きないなと思うくらい(笑)。ずっと自分のやりたいことを探してきましたが、今はこれをやるために生まれてきたんだと思えるくらいになりました。
 
ジャーナリストの池上彰さんが、ある著書で「仕事に就いてからの方が人生は長い。大人はみんなやりたいこと探しをしているんだよ。」と述べていました。本当にそうだなと思います。やりたいことが見つからなくても、経験を積むことが大事。考えていた時期は自分にとって必要だったし、これまでの経験が今につながっていると思います。

▲プレオープンした農園で開いたイベントの様子。夜の農園も良い雰囲気。

観光農園の先で、ずっと住み続けられるまちづくりを

―ありがとうございます。最後に、今後の展望を教えてください。
 
今年6月のグランドオープンに向け、今はがむしゃらに進んでいます。
まずは観光農園としてたくさんの方に来ていただける土台をつくるのが第一段階ですね。普段育児や仕事を頑張る方へ、いつもとちょっと違った休日を過ごし、癒しと笑顔が自然に生まれる場を提供していきたいです。
 
そして、第二段階として真岡市民の方が気軽に集まれる場所づくりをしたいです。いろいろな方が普通に来ることができて、悩みを口にしてもしなくても、リフレッシュできるような。そのためにイベントの実施や、見て癒されるようなお花畑を作ろうと計画しています。
 
さらにその先、農業の視点から、ずっと住み続けられるまちづくりの一躍を担えたらと思っています。例えば、年齢の早い段階から「自分で食べ物をつくる力」をもつことができるようなきっかけづくりや場づくりをしていきたいですね。
 
健康維持に野菜はとても重要です。自分で作って食べれば経済的ですし、余れば販売して収入を得ることもできます。アメリカのある地域では、貧困層が自分たちで食べ物を作れるようにしたことで暮らしの質が向上したそうです。物々交換をすればお金をかけなくてもいろいろな食べ物を手に入れ、バランスのとれた食事をとれるようになります。
 
また、高齢者の方が野菜をつくることで、買い物に行かずに自宅の畑や近所で野菜を手に入れられるようになります。地方では高齢者の移動手段の減少が課題だと感じているので、遠くにいかなくても野菜を手に入れることができれば、このまちに住み続けやすくなると考えています。畑仕事をすることで介護予防にもなりますし、つくった野菜を販売したり交換したりする中で人と話す機会が増えると、生きがいや孤立防止にもつながるでしょう。
 
ゆくゆくは、若い人たちが自分の健康や生き方について考え、地域創生やソーシャルキャピタルについても学ぶ場づくりをしていきたいです。自分のまちに愛着を持ち、「自分で生きていく力」を養う場をつくることで、この多様性の時代、誰もが自分にとって豊かな人生を送ることができるような取り組みをしていきたいです。
 
これまで看護師や保健師として働いてきたからこそ、健康福祉の視点を交えて、まちづくりを考えることができるはず。このブルーベリー農園を通して、いろいろな方とつながりをもちながら実現していきたいと思います。
ブルーベリーポーズをしてくれた北城さん

取材、文章、写真 : 粟村千愛(真岡市地域おこし協力隊)

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