1日の中にささやかな幸せを。コーヒーと焼き菓子と、"健康"になれる時間。まちつくインタビューvol27.白田 智之さん

更新日:2025年06月25日

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栃木県真岡市で、まちづくりに取り組む方々の想いを伺うインタビュー!今回取材したのは、真岡市門前の路地にたたずむカフェ「ミチヨコーヒー」店主・白田 智之さんです。真岡にUターンして妻・三千代さんとカフェを開業した白田さん。店づくりへの想いや、カフェを営むからこそ見えてきたまちの姿を伺いました。
白田 智之(はくた ともゆき)|ミチヨコーヒー店主
真岡市生まれ。大学卒業後、ヒッチハイクの旅を経て大手スポーツクラブに就職。東京や大阪など各地を転々とし、インストラクターの養成を担当。2020年に真岡にUターンし、2022年11月にミチヨコーヒーをオープン。

1日の中にささやかな幸せを

-今のご活動について教えてください。
 
コーヒーと焼き菓子を販売するミチヨコーヒーを、妻と二人で営んでいます。二人とも今の仕事は趣味の延長みたいなもので、好きなことしかしていないです(笑)。
 
楽しいことも嫌なことも一緒くたになっている1日の中で、15分でもほっと一息つく時間があれば、少しでも良い日になる。その位置づけに、コーヒーや焼き菓子があったらいいと思っています。
 
-美味しいコーヒーと焼き菓子に加えて、インテリアや音楽など空間も素敵ですよね。
 
まず二人が居心地の良い空間を作ろうと考えて形にしました。二人でできることは二人でやろうと、壁の漆喰を塗ったりタイルを貼ったりして手作りしています。絵や小物は元々好きで、出会ったら購入してお店に置いています。二人ともポップで可愛らしいものが好きですね。でも、もちろん意見が合わないこともあって…。先日qafe anonさんの個展で購入した絵は、妻はコーヒーの絵、僕は植物の絵が気に入って、話し合いましたがお互い譲らず、結局2枚購入しました(笑)。
 
音楽はジャズが好きです。中学生の頃、村上春樹を読むようになり、ジャズに出会いました。父からレコードを譲り受けてよく聴いていましたね。同じ曲のレコードでも違うバージョンを5枚持っているなど、収集癖もあります。

自分自身は健康なのか?

-お二人とも、元々はインストラクターだったそう。ミチヨコーヒーを始めるまでに、どんな経緯があったのでしょうか?
 
僕は真岡出身で、大学から県外へ。人とかぶらないところに惹かれてカヌー部に入り、ほとんどずっと琵琶湖にいました。その頃、部活から逃げられなくて、トレーニングをするように(笑)。いい体になるとモテることもわかり、トレーニングの結果として素敵な人生が待っている、という実感を持ちました。
 
大学4年生のときに祖母が亡くなり、自分の人生を改めて考えたとき、この先何十年も働く会社をこんな数ヶ月で決めていいのかと悩むようになりました。何社か内定はいただいていたのですが、悩んだ末全部蹴って、放浪の旅に出ました。ヒッチハイクで日本中を回って…。最終的にお金が底をつき、実家に帰ってスポーツクラブでアルバイトをすることに。そこでスポーツクラブの理念に共感して、そのまま正社員になりました。
 
日々生きていると、良いものが食べたいとか、ブランドもののバックが欲しいとかいろいろありますけど、明日死んだら全部いらないわけじゃないですか。生きていくのに、健康がいちばんの価値だと思ったのです。大学生のとき、トレーニングでポジティブな変化を実感していたからこそ、「運動で変わることができる」と伝える仕事にやりがいを感じました。会員さんにポジティブな変化をもたらすことができれば、その人が属するコミュニティにも、さらにその背後にあるコミュニティにも影響を与え、人々の意識を変えることができる。僕らのちょっとした働きかけが、世界を健康にできると信じていました。
 
妻とは同じエリアで働いていたときに出会い、お付き合いするように。インストラクター養成の仕事をしていたので、2、3年に1回ほど引っ越して東京、大阪、千葉など全国を転々としました。さらに3ヶ月に1回くらい出張もあって、忙しかったですね。
 
若い頃は使命感に燃えてがむしゃらに仕事していましたが、徐々にいつまで動けるのか考えるようになりました。相手には「健康を提供します」と言うけれど、自分たちはシフトが不規則で家に帰るのも遅い。今の状態が健康で幸せだと言えるのかと、ふと考えるようになりました。
 
そんな時、新型コロナウイルス感染症が流行。スポーツクラブは軒並み休館に。あれだけ健康のためと言っていたのに、来るだけでダメなのかとショックを受けました。その少し前に父が亡くなり、母が一人になってしまったので実家に戻っていたこともあって、仕事を辞めることに決め、真岡に戻りました。
 
ずっと前から、妻とコーヒー屋さんをやりたいねと話はしていました。二人とも使命感に燃えて働く時期も味わったし、これからは幸せに好きなことをして、最低限生活できたら良いんじゃないか。何度も話し合った末、真岡でカフェを開くことに決めました。
 
-お店の場所はすぐに見つかったのですか?
 
はじめは真岡だけでなく、宇都宮や小山などいくつか候補があって、それぞれの場所を歩きました。だけど、働いていたとき通勤が嫌だったので、なるべく真岡の家から近い方がいいなと。僕は真岡高校に通っていましたが、お店を構えた門前地区は歩いたことがなくて。こんなところがあるんだと思い、補助金が出る地域だったこともあって、今の場所に決めました。そのとき全く人が歩いていなかったから、最初は不安だったんですけどね(笑)
 
-未経験の業種への挑戦は、大変ではなかったですか。
 
二人とも「なんとかなるだろう」と考えるので、深刻にはならなかったです。退路は断っていましたから、やるしかないという感じでした。それから、要求水準を低めに設定していたので、売上が少ない1年目も「これだけ売れたんだ」と嬉しかったです。80点を目指していたのに50点だと嫌だけど、はじめから20点だと思っていれば、50点も嬉しいですよね(笑)。最初から大志を抱いていないのがよかったかもしれないです。
 
-実際にお店を始めてみて、どう感じましたか。
 
ノンストレスですね。二人とも好きなことをやっているだけですから。前職のときは、夜寝る前に「明日の朝、目覚めなければいいのに」と思っていたんですよ。僕は漫画やアニメが好きなので、「朝起きたらチート能力を持って異世界転生してないかな」って。今は全く思わなくなりました。健やかに寝ています(笑)。今の方が健康ですね。

お店を通して見えてきたまちの姿

-お店を始めて印象的だったことは?
 
プレオープンからさまざまな方が来てくださって、印象的なお客さんが多いです。コーヒーを練習している頃に来てくれたご近所の人は今も通ってくれていますね。その方と共にお店も育っている感じがしています。
 
他にも、オープン日に絵をプレゼントしてくれたお客さんがいたり、遠出したときにお土産を買ってきてくれるお客さんがいたり。お祭り大好きな元寿司屋のお父さんは、毎年祭りのときに法被を着て来てくれるので、一緒に写真を撮るのが恒例です。
 
真岡にはバイタリティに溢れている人がいっぱいいるなと感じますね。この間も、市議会議員の補欠選挙があったときには、こういう考えだから誰を推している、といろいろなお客さんが話していくんですよ。政治に興味があって、まちをよくしたいと思っている熱い人がたくさんいますね。お店をやっていなかったら気がつくことができなかったと思います。

▲壁にもこだわりのレコードが。この取材中にも、常連のお客さんがチャーハンを差し入れする一幕があった。

ストレスなく、"健康"でいられる空間を

-最後に、今後の展望を教えてください。
 
いちばんは続けることですね。3年やってきて、2人ともお客さんの顔が浮かぶようになりました。だから、お店を存続させることが目標です。大きな会社だとマニュアルで決まったサービスしかできませんが、一人ひとりに合ったコミュニケーションができるのは僕たちの強み。コーヒーを飲めない子どもにはシールをあげるとか、オーダーメイドのサービスをしていきたいです。
 
それから、6月22日に初めて音楽イベントを開催するんですよ。以前から個人のお店がイベントを企画しているのを素敵だなと思っていて、電話でアーティストの事務所に問い合わせたら、なんと来てくださることになりました。当日は好きなレコードもガンガン流して、楽しみたいと思います。やってみての反響や、自分たちがどう思うかを振り返って、よかったら2回目以降もやっていきたいですね。
 
今まではスポーツクラブの頃のつながりでの出店が主で、あまり地元のマルシェなどには出ていなかったので、今後は地元に根ざした出店もしてみたいです。
 
ただ、あんまり自分たちが前に出るのは好きじゃなくて。例えばお母さん3人組のお客さんがいらっしゃって、うちではコーヒーを飲んでいけないとなったら別のカフェを紹介しますし、お隣のお店のクレープを食べたそうなお客さんがいたら営業日をお伝えします。この地域を歩いた人が、洋服を買ってハッピーになったり、ハンバーガーを食べて満足したり、コーヒーやお菓子でホッとしたりと、いろいろな楽しみ方ができればいいのではないかと思います。それぞれのお店がそれぞれのやり方で、この地域を訪れる人たちに提供できればいいですよね。みんなのお店がずっと続いていって、それが真岡をよくする要因になったらいいなと思っています。
 
フィットネス業界はやめましたが、今も仕事の本質は同じなんじゃないかと思うことがあります。例えばおじいちゃんおばあちゃんが来てくれたとして、お店まで歩いてくるのも良い運動になるし、話して気分が晴れるのも精神衛生上良い効果があります。大きな意味で、人が健康になれる場を提供しているのかもしれないと。だから、コーヒーや焼き菓子そのものの美味しさも、気軽に話すことができる環境も大事にしていきたいですね。来たらおしゃべりして帰っていける、居心地の良い空間でありたいです。
 
 
 

取材、文章、写真 : 粟村千愛(真岡市地域おこし協力隊)

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