絵本に、読み聞かせに救われた。地域からもらった温かさを次世代へつなぐ。まちつくインタビューvol29. 佐藤 明子さん
栃木県真岡市で、まちづくりに取り組む方々の想いを伺うインタビュー!今回取材したのは、市内の15の読み聞かせ団体の連絡会「明日の図書館を考える会(あすとしょ)」の代表、佐藤明子さんです。特別支援学校で教師として働きながら、読み聞かせの活動を続ける佐藤さんに、活動のきっかけや想いを伺いました。

佐藤 明子(さとう あきこ)|明日の図書館を考える会代表・教師
宇都宮市出身。結婚を機に真岡市へ。特別支援学校の教師として勤務するかたわら、小中学校の読み聞かせボランティア活動を長年続けてきた。2023年、任意団体「明日の図書館を考える会」を設立。社会教育士。
市内の読み聞かせ団体が一堂に
-今のまちでのご活動について教えてください。
「明日の図書館を考える会」(以下、「あすとしょ」)の代表をしています。市内の読書活動に関わる団体の連絡会で、今は15団体が所属。夏の夜の図書館で本を楽しむ「ナイトライブラリー」、秋に一日中読み聞かせを楽しめる「リブフェス」に参加しているほか、図書館で奇数月におはなし会、偶数月に子どもたちが持ってきた本を読んであげる企画「これ読んで!」を交互に開催しています。
あすとしょは、真岡市に新しくできた複合交流拠点「monaca」を市民がつくっていくためのワークショップから始まりました。わたしは小中学校の読み聞かせ団体に所属しており、そのワークショップに参加。そこで、以前から読み聞かせ団体の連絡会を作りたいと話しをしていた方と再会しました。
真岡市では各小学校に読み聞かせ団体があるのですが、あまり連携は取れていませんでした。これはぜひ実現したいなと思い、図書館の方や読み聞かせをしている方にお声かけして、有志の集まりを開いたのです。6,7人くらい来てくれるかなと思っていたら、20人ほどの方にご参加いただいて。これは大ごとになっちゃったぞと思いました(笑)。
でも、あすとしょが始まったことで、改めてどんな方が読み聞かせをしているのか、各小学校でどんな活動をされているのかの実態が掴めましたし、市内で子どもと絵本に関わる活動をされているリーダーの方々とつながることもでき、読み聞かせ活動が活性化したなと思います。些細な意見も否定的に受け止める方がいなくて、ポジティブな意見が重なっていくので、毎回楽しいですね。20年以上読み聞かせをされている方々がいる中で、わたしが代表でいいのかなと思っていました。
リブフェスなど図書館のイベントが開かれる際、おはなし会の企画運営のお声かけがあり、「一人では難しいこともみんなでやれば叶う!」ということをみんなで実感することができました。図書館や本に込める善意や熱意が目に見える形になっていくことが、本当に嬉しくて。やる側も来る側もみんなが主役の、たくさんの笑顔を生み出す活動のお手伝いができるのは幸せなことだな…と感じ、みなさんの笑顔をつなぐコーディネーターとして、代表をさせていただいています。
また、2024年から6年間のブランクを経て、特別支援学校の教員として復職しました。6年間は子育てのため、教員ではなく保護者の側にいる生活をしていました。だからこそ、保護者の気持ちと学校の立場の両方を大事にできるはず。子どもを真ん中に、お子さんや保護者の方へ、優しさ、あたたかさ、安心を届けていきたいと思っています。

絵本を読む時間に救われた
―教師として働く中で、読み聞かせの活動も続けてこられたのですね。佐藤さんが読み聞かせを始められたきっかけは?
わたしは上の子2人が小学生の時に娘を出産したのですが、その育休中に小学校の読み聞かせボランティアに申し込んだことがきっかけです。「読み聞かせをすると子どもも喜んでくれるよ」と聞いていたので、子どもたちが小学生のうちにやってみたいなと思っていたんですよね。
自宅では、長男が小さい頃から絵本の読み聞かせをしていました。絵本の定期便を届けてもらって読んでいて。その定期便の中に入っている親向けの読本を頼りに子育てをしていました。そこには「どんなに子どもを叱りつけてしまった日も、1日の最後に読み聞かせをすることで怒りっぱなしの1日にならない。それは子どものためというより自分のためだ」というようなことが書いてあり、心にガツンと来ましたね。
絵本の時間は心地よい時間だと子どももわかっているから、喧嘩した日も「ねえママ」と話しかけてきてくれて、わたしも「ごめんね、今日も良い1日だったね」と伝えることができました。読み聞かせの時間が、前向きな明るい気持ちに切り替えられるスイッチだったのです。絵本を通して子どもと関わることで、わたしは母親として命拾いし、救われてきた感覚がありました。
そんな読み聞かせを学校でもしてみると、子どもは喜んでくれ、つながりもできて。楽しく続けることができました。
子どもが中学生になったころ、ちょうど中学校ではコミュニティスクールが立ち上がる時期でした。そこで校長先生に声をかけられ、市内の中学校で初めて読み聞かせ団体を立ち上げることになったのです。朝の読書の時間の15分間に、メンバーが読み聞かせを行います。はじめは中学生が聞いてくれるのか不安に思っていましたが、みんな小学校からの素地があり、思った以上に真剣に聞いてくれました。
例えば、ウクライナとロシアの戦争が始まった頃、平和啓発活動をしている方が、平和を題材にした『野ばら』という紙芝居を読んだことがありました。教室中がしんと静まり返って、物語が終わった後も心一つに余韻を噛み締めているような瞬間がありました。中には涙している子もいて、聞き入れにくい教訓めいた言葉も、絵本を通して沁みていくんだなと実感しました。
ー小さな子どもだけでなく、中学生にも伝わるんですね!
そうですね。読み始めの頃は集中力を欠いている子もいますが、頬杖をついていた子がだんだんと身を乗り出してくるんです。絵本の持っている力はものすごいと思います。最初は楽しいからやっていた活動でしたが、続けていくうちに、「おはなし」と子どもたちとをつなぐお手伝いをさせていただいているんだと感じるようになりました。それができるのは幸せなことだなと思っています。

困った時に支えてくれる地域
ー学校だけでなく、広く地域で活動されていますが、地域と関わるきっかけはありましたか?
ターニングポイントは、子どもが学校にいかなかった時期があったこと。小学5年生のときでした。辛そうにしている我が子に「とことん寄り添いたい!」と強く思い教職を退職。悩んでいても、どこの誰に相談したら良いのかわからなくて…。でもそんな時、地域のママ友やパパ友が支えてくれました。「ちょっと心が風邪を引いちゃっただけだよ」と心を軽くしてくれたのです。 人は一人で生きていけないこと、地域の人とつながる中で、子どもも子育ても支えられていることを実感しました。
元々育成会などの活動を熱心にやっていたのですが、そこから地域のためにできることをしたいという気持ちが強くなりました。次男は6年生になるとまた学校に通えるようになり、わたしも非常勤で復職して仕事をしながら地域活動の一環として、読み聞かせの活動を続けてきました。
それが中学校での読み聞かせ団体の立ち上げにつながり、やがて中学校の学校運営委員になって、地域コーディネーターとして地域づくりに関わるようになりました。その頃、県の教育事務所の先生のすすめで、学校ボランティアや地域づくりの研修にたくさん参加させていただきました。地域で生き生きと活動されているたくさんの方々との出会いがあり、「社会教育についてもっと学びたい!」と思う大きなきっかけになりました。人とのご縁に恵まれて、今のわたしがあります。
ーそうした活動が、あすとしょの設立につながったのですね。佐藤さんは、monacaのオープニング実行委員会の委員長も務められていましたよね。
はい。複合交流拠点をつくるワークショップの際、オープニングイベントを市民の手で作り上げようという声かけがあり、新しい施設ができることを他人事ではなく自分ごとにしたいと感じて、手を上げました。声かけをされた事務局の方が、若者とまちなかで楽しそうに笑顔で活動されているのを見ていたので、私もその輪の中で一緒に活動したいという気持ちもあって。普段読み聞かせをしている近所の母ちゃんが新しい施設で楽しそうにやっている姿を見て、「私も何かやってみたい!」と思う方がいたらいいな、と思っていました。
実行委員会が始まり、10月にはおぼろげだったアイデアが、1月には目に見える形に。当日は本当にたくさんの方々の笑顔が生まれ、それが今日まで続いていることをとても嬉しく思っています。そのオープニングイベントで、ある小学校の読み聞かせ団体に朗読劇を披露してもらいました。素晴らしいという噂は知っていましたが、なかなか他の小学校の団体は見る機会がなくて。その劇は、普通のお父さん、お母さん、おじいちゃんおばあちゃんが、ピアノや歌など得意なことを持ち寄って、ボランティアで作り上げているんです。この朗読劇をみんなと共有したいという、あすとしょ立ち上げ当初からの夢が一つ叶いました。
もらったものをつないでいく
ーありがとうございます。今後やりたいことを教えてください。
今後も読み聞かせの活動をライフワークとして続けたいです。それに加えて、子育ての悩みなどを身近で気軽に相談できる活動をしたいと思っています。名づけて、「お菊(=聞く)さん活動」。最近、わたしと同じように子育てで悩んでいる方のお話しを聞く機会が増え、何かできればと考え思いつきました。どんな風にできるかな…と日々妄想中です(笑)。
子育ての先輩の話を聞けたり、子どもの発達に心配のある方がちょっと相談できたりする機会があると良いと思うのです。例えば「monacaに行くと話を聞いてくれる人がいるよ」というような、身近な世話焼きおばちゃん活動をしたいですね。子育てで辛かった時期、わたしを支え、救ってくれたのは地域のみなさんの優しさとあたたかさでした。残りの人生は少しでもその恩返しになるようなことができたら…といつも考えています。
今あすとしょで行っているmonacaでの「これ読んで!」の企画も、そういった想いが込められています。私たちがお子さんに本を読んでいる間に、親御さんが自分が読みたい本を選んだりコーヒーを飲んだり、ひとときでも心休まる時間になると良いなと。
読み聞かせを始めた時に生まれた娘も、小学校高学年になりました。わたしがあすとしょやオープニング実行委員会の仕事で忙しくしていて、寂しい思いをさせているかなと心配していたのですが、5月に「これ読んで!」のイベントに一緒に来てくれたんです。そこから、娘もボランティアをする側になりました。
7月のおはなし会では、娘が読み聞かせをする大型絵本をわたしがめくりました。学校でも「クラスを楽しませる係」として読み聞かせをしているそうです。一緒に読み聞かせをする仲間も増えたみたいで…。いつも「ママはたくさんの人に笑顔になってほしくて頑張っているんだよ」と伝えていたわたしの背中を、ちゃんと見ていてくれたんだなと思いました。嬉しかったなあ。
娘を見ていると、子どもに何かを伝えるイベントを作ることも大事だけれど、こうやって身近なところでやっていることが子どもに受け継がれていくんだなと思います。日常の中でやっていることが、世代をわたって続いていく。真岡の明るい未来を作るのは、そんな取り組みなのだなと。
真岡は、本当にあたたかい方が多いと思います。そういう良さがもっと生かされ、子どもたちがやりたいことを実現できる、住み続けたい地域であるよう、活動を続けていきたいです。

まちつくインタビューvol.29 佐藤明子さん (PDFファイル: 1.2MB)
取材、文章、写真 : 粟村千愛(真岡市地域おこし協力隊)
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更新日:2025年10月22日